「自己責任論」に関する雑記

2004年分

4月19日

東京に行く前日、イラクで人質になっていた日本人3名が解放され、さらに残る2人も別に解放されたという報を聞いた。まずは安心した。もともとイラク人が日本人に対して敵意が殆ど無い事は、私も朧気には知っているが、最近はその感情も変化しているとの報も聞いていたし、かなり心配であった。
国内は彼らの「自己責任」を問う声で充満しているらしい。しかし私は、それに隠されて見えてこない日本のマスコミの好い加減さをこそ非難したい。もう、被害者の家族をブラウン管の前に引っ張り出して来るのは、少しは自重してはどうか。あれは本人たちが疲れるだろう。

4月21日

イラク人質事件に関して、ふと書く気になったので。
最初に人質となった3人のイラクへの突入ルート、あれは2002年に日本人バックパッカー達によって開拓されたルートである事を述べたい。当時はイランからの入国が不可能で、ヨルダン・アンマンのツアー会社が出していたツアーで訪問した人が、結構な数に上った。ツアー自体はそれ以前から存在していた。私も2000年に、アンマンのホテルに置いてあった情報ノートでツアーの存在を確認している。5人参加者を集めれば、一人524米ドルでツアーを出すというのがその内容である(その後、2002年夏からあのイラク戦争勃発まで、イラク行きはカイロ・サファリホテル投宿者の間で流行った。これは意外な事態だった)。
すなわち現状では、イラクへの入国ルートはこのアンマン→バグダッドという道しか存在していないのである。待ち伏せして人を拉致しようと企画すれば、進入ルートなど簡単に確定できるのである。その対象が日本人に限らない事は、いうまでも無い。
危険がどーのこーの、自己責任がどーのこーのいう前に、まずはこの事実をしっかり把握した報道と議論をして欲しかった。

4月27日

ふと思い出したので一筆。
BBSにも書いたが、バックパッカーというのは基本的にNGOが嫌いである。何故か。
NGOにしてもバックパッカーにしても、現地に対する認識は表層的なものに過ぎない。バックパッカーたちは基本的にその事を熟知している。従って、NGOの活動の大半が、
「独りよがりな善意の押し付け」
に見えて仕方が無いのである。無論、ペシャワール会などの例外はある。だからこそそういった組織は貴重なのだが、もし私がパキスタンにいた当時にペシャワール会の存在を知っていたとして、その活動を素直に賞賛する気持ちになれたかというと、かなり怪しい。それくらい、バックパッカーたちはNGOに対して、見る目が厳しい。だから今回イラクで拉致された人たちに対する見方は、私の旅仲間たちは基本的に厳しい。

11月1日

イラクで日本人旅行者が殺された。謹んでご冥福を祈る。
しかし、伝わってくる情報からは、被害者となった人物の、驚くほどの状況認識の甘さが浮かび上がってくる。半ズボンで入国した、という話を聞いたとき、私は耳を疑った。実話だとすれば、到底信じ難い。
彼はNZでワーホリで滞在していたとの事である。カイロ・臥竜庵のまる塾長によれば、オセアニアでのワーホリあがりの人々には、バックパッカーとしての常識が欠けている人間が多いという。その言葉を裏付けるようなのが、今回の亡くなられた方の行動。イスラエルからヨルダンを経由してイラク・・・等と、私には想像が到底不可能なルートである。もしビンボー旅行者としての経験を積んでいるならば、−というか私ならば、イスタンブールかカイロによって情報収集をするだろう。それすらしなかったという事は、

@イスラエルで、経験豊かな旅行者との交流が殆ど無かった
Aイスラエル国内で、イラク情勢について良質な情報に接する機会が少なかった

こんな事態が考えられる。・・・なんだか、今後の中東情勢を考える上で、少なからず示唆される所が多いなあ。

ところで、今回の報道であるが、毎日新聞を読んでいて驚愕した。紙面に書かれた記事には、当然ながら記者の所在地が書かれるのだが、それにバグダッド駐在を示す目印が何処にも無かった。おい、バグダッドにも行かない連中が事態を云々しているのか?ちなみに読売は間違いなく記者を撤退させているとの事。おいおい、イラクの現状を知らん連中がイラク情勢について語っているのか・・・
中東情勢音痴はマスコミもそうなのだが、政府も酷い。自衛隊の駐留を一年延長している場合じゃないでしょ。今、国内でこそ、経験豊富な自衛隊の活動が要請されるところじゃないの?イラクに自衛隊を派遣したその年に台風と地震で痛めつけられまくるとは、少しは自らの失政について省みるべきではないのか。
為政者が余りにも政道を誤りすぎると、天が罰を下す。昔、そんな概念があったそうな。今、日本の状況を見てみると、迷信だと笑い飛ばすことが出来ない。そう思っていたら、昔の旅仲間や盟友たちにも、同様の事を言う人がいたりする。

11月26日

夕刻、東京飯田橋にて今度は旅の道連れ・S君に会う。毎年、何だかんだで会っているわけだが、今回も話は尽きる事を知らない。新鮮だったのは、彼が今年4月と10月に起きた日本人拉致事件に関して、
「4月の3人よりも10月の事件を起こした人の方に親近感を覚える」
と語った事。愕然としかけたが、よく考えてみれば、旅人の感性としては、そちらの方が自然かもしれない。前も書いたが、長期旅行者というものはNGOに対する不信感が強烈な人が多いしな。

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